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天の原澄めるけしきはのどかにて
早くも月の西へ行くかな

歌の意味
大空の澄みわたった様子はのどかであるのに、早くも月は西へと傾いていくことだ。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 992

詞書「月の歌十首詠み侍りける時、詠める」
 月の歌を十首詠んだ時の歌である。大空の澄みわたる様子はのどかなのに、早くも月は西へ行くことだ、と詠む。空はゆったりと静かに見えるのに、月だけは思いのほか早く西へ移っていくことに気づき、名残を惜しむ心を、のどかさと早さの対比によって表している。
 作者の「賀茂成保」は賀茂社の神職の一族の歌人である。
 本巻の第九百九十首の「月傾きぬ」に続き、本歌も西へ移っていく月を詠む。また前歌の第九百九十一首の「澄む月」を受けて、本歌は「澄めるけしき」と詠んでいる。

 初句「天の原」は、広々とした大空の意である。
 二句「澄めるけしきは」の「る」は存続の助動詞「り」の連体形で、澄みわたっている様子は、の意である。前歌の第九百九十一首の三句「澄む月は」と応じる。
 三句「のどかにて」は、ゆったりと穏やかであって、の意で、四句の「早くも」と対比される。
 四句「早くも月の」は、思いのほか早く月が、の意である。
 結句「西へ行くかな」は、西の空へ移っていくことだ、の意で、「かな」は詠嘆の終助詞である。本巻の第九百九十首の結句「月傾きぬ」と、沈んでいく月を詠む点で通う。

あまのはら:広々とした大空
けしき:様子、ありさま
作者
賀茂成保
出典
千載和歌集
前の歌
筏下ろす清滝川に澄む月は 棹にさはらぬ氷なりけり
次の歌
さびしさにあはれもいとどまさりけり ひとりぞ月は見るべかりける