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何となくながむる袖の乾かぬは
月の桂の露や置くらん

歌の意味
何ということもなく月を眺めている私の袖が乾かないのは、月に生えているという桂の木の露が置くからだろうか。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 1013

詞書「賀茂社後番歌合に、月の歌とて詠める」
 賀茂社の後番の歌合で、月の歌として詠んだ歌である。何となく眺める袖が乾かないのは、月の桂の露が置くからだろうか、と詠む。月を眺めるとわけもなく涙がこぼれ袖が濡れることを、月に生えているという桂の木から露が降りてくるからかと、伝説を用いて趣向を凝らしている。
 作者の「藤原親盛」は平安時代後期の歌人である。
 本巻の第九百九十四首の「そのこととなく涙落ちけり」と、月を見てわけもなく流れる涙を詠む点で通っている。本歌はその涙を月の桂の露に見立てている。

 初句「何となく」は、これといった理由もなく、の意である。本巻の第九百九十四首の四句「そのこととなく」と応じる。
 二句「ながむる袖の」の「ながむ」は、もの思いにふけって見やる意で、月を眺める私の袖の、の意である。
 三句「乾かぬは」は、乾かないのは、の意で、涙に濡れた袖を表す。
 四句「月の桂の」は、月に生えているという伝説の桂の木の、の意である。
 結句「露や置くらん」の「や」は疑問の係助詞、「らん」は原因推量の助動詞で、露が置くからだろうか、の意である。露は涙の見立てである。

つきのかつら:月に生えているという伝説の桂の木
ながむ:もの思いにふけりながらぼんやりと見やる
うたあはせ:歌人を左右に分け、歌の優劣を競う催し
作者
藤原親盛
出典
千載和歌集
前の歌
さもこそは影とどむべき世ならねど 跡なき水に宿る月かな
次の歌
真柴葺く宿の霰に夢覚めて 有明方の月を見るかな