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古里の板間の風に寝覚めして
谷の嵐を思ひこそやれ

歌の意味
あなたの去った古里の家の、板の隙間から吹き込む風に夜中に目を覚まして、谷に吹く嵐はどれほど激しいことかと思いやったことだ。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1098

詞書「前大納言公任、長谷に住み侍りける頃、風激しかりける夜の朝に、遣はしける」
 藤原公任が長谷に住んでいたころ、風の激しかった夜の翌朝に贈った歌である。古里の板間の風に寝覚めして、谷の嵐を思いやったことだ、と詠む。都の家でさえ板の隙間から吹き込む風に目が覚めるほどであったから、山深い長谷の谷ではどれほどの嵐であったろうかと、出家して山里に住む父を気づかっている。
 作者の「中納言定頼」は藤原定頼である。藤原公任の子で、権中納言に至った。父と同じく和歌に優れた。
 次歌の第千九十九首は、本歌に対する公任の返歌である。また本巻の第千六十一首も、長谷に住む公任に贈った歌である。

 初句「古里の」は、もと住んでいた所の、の意で、公任が去った後の都の家を言う。次歌の第千九十九首の三句「古里の」と同じ語である。
 二句「板間の風に」は、板の隙間から吹き込む風に、の意である。
 三句「寝覚めして」は、夜中に目を覚まして、の意である。
 四句「谷の嵐を」は、公任の住む長谷の谷に吹く嵐を、の意である。次歌の第千九十九首の初句「谷風の」と応じる。
 結句「思ひこそやれ」の「こそ」は強意の係助詞で、已然形の「やれ」で結ぶ係り結びである。思いやったことだ、の意で、次歌の結句「思ひやりつれ」と呼応する。

ふるさと:もと住んでいた所、ここでは公任が去った都の家
いたま:屋根や壁の板と板の隙間
ねざめ:夜中に目を覚ますこと
作者
藤原定頼
出典
千載和歌集
前の歌
あはれとも誰かは我を思ひ出でむ ある世にだにも訪ふ人もなし
次の歌
谷風の身にしむごとに古里の このもとをこそ思ひやりつれ