- 表題
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- 伊勢物語
思へども身をしわけねばめかれせぬ
雪のつもるぞわが心なる
大切に思い慕っていても私の体は二つに分けることができないので、目も離せないぐらい降りしきる雪が積もって帰れなくなってしまったことこそ君の側にとどまる口実ができて私の本心が望むところです。
ぬき乱る人こそあるらし白玉の
まなくも散るか袖のせばきに
この滝の上で玉をつないだ紐をぬいて、玉をばらばらにしている人がいるらしい。受け取る袖はせまく、こぼれてしまうのに玉が絶え間なく乱れ飛び散る。
晴るる夜の星か河辺の蛍かも
わが住むかたの海人のたく火か
あのたくさんの明かりは、晴れた夜の星だろうか、河辺の蛍だろうか。それとも私が住むほうの漁師が夜釣りのために灯した漁火だろうか。