- 表題
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- 伊勢物語
おほかたは月をもめでじこれぞこの
つもれば人の老となるもの
たいていの場合は美しい月を賞美することはない。この月こそが夜ごとにつもり重なれば年となって、積もりつもって人の老いになるのだから。
秋の夜は春日わするるものなれや
かすみにきりや千重まさるらむ
秋の長い夜は過ぎ去った春のおだやかな日など忘れるのだろう。春の霞にくらべると秋の霧は千倍もまさって良いものだろうか。
彦星に恋はまさりぬ天の河
へだつる関を今はやめてよ
一年に一夜しか織姫に逢えぬ彦星よりも私があなたを恋する気持ちはまさっている。天の川のように二人を隔てる関所のような仕切りを今はやめてくれ。
秋かけていひしながらもあらなくに
木の葉ふりしくえにこそありけれ
けっして秋を飽きるという意味の掛詞として言ったのでもないのに、結局秋になって木の葉が降り積もり入り江が浅くなるような浅い縁だったのですね。
見ずもあらず見もせぬ人の恋しくは
あやなく今日やながめ暮らさむ
見ないというのではなく、かといってはっきり見たのではない、あなたが恋しくて、わけもなく今日は一日中ぼんやりそちらの方を眺めて過ごすか。
知る知らぬなにかあやなくわきていはむ
思ひのみこそしるべなりけれ
見知るとか知らないとか、どうしてわけもなく区別して言うのか。知り合って逢えるのは思いだけが道しるべになるものだ。