- 表題
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- 伊勢物語
白露は消なば消ななむ消えずとて
玉にぬくべき人もあらじ
消えてしまいそうな白露は、消えてしまうならば消えてしまってほしい。消えなかったとしても飾りの玉として紐を通す人もいないでしょう。
つれづれのながめにまさる涙河
袖のみひぢて逢ふよしもなし
あなたのことを考えながら物寂しく思い耽って眺めていると、長雨をしのぐほど涙が河となって流れる。袖がぬれるばかりで、あなたに逢うすべもない。
あさみこそ袖はひづらめ涙河
身さへながると聞かばたのまむ
浅い思いだからこそ袖が濡れる程度の涙河なのでしょう。御身まで涙に流れる真情を聞いたなら、その恋の情をたのみにしましょう。
かずかずに思ひ思はずとひがたみ
身をしる雨はふりぞまされる
いろいろとあなたが私のことを思っているのか思っていないのかお尋ねできないので、私の幸不幸を知る雨がひどく降っています。
思ひあまり出でにし魂のあるならむ
夜ふかく見えば魂むすびせよ
私があなたを思うあまり、私の体をぬけ出してあなたの所へ行った魂があるのだろう。深夜の夢に見えたなら私の魂を結びとめるおまじないをして下さい。
下紐のしるしとするも解けなくに
かたるがごとは恋ひずぞあるべき
人から恋をされると下袴の紐がとけると言うが私の下紐は解けないから、あなたは自分が語るような恋はしていないにちがいない。