- 表題
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- 伊勢物語
岩ねふみ重なる山にあらねども
逢はぬ日おほく恋ひわたるかな
大きな岩を踏んで上る重なり続いた険しく深い山ではなく、逢いに行くのは簡単なはずなのに、逢わない日が多く、恋焦がれている
大淀の浜に生ふてふみるからに
心はなぎぬ語らはねども
大淀の浜に生えるという海松を見に行くと言葉を聞き、お目にかかっただけで私の心は安らかに落ち着きました。これ以上、睦言を交わさなくても
袖ぬれて海人の刈りほすわたつうみの
みるをあふにてやまむとする
袖を濡らして漁夫が刈り取って干す海松(みる)を思っているだけで、袖を涙で濡らしながら切に頼む私の顔を見るだけですませようとするのか。
大原や小塩の山もけふこそは
神世のことも思ひ出づらめ
大原野において、この小塩山のふもとにある氏神様も、藤原氏出身の東宮の母の御息所が参拝になった今日のこの日には神代のことも思いだしているでしょう。
わが門に千尋ある影をうゑつれば
夏冬たれか隠れざるべき
我が家の門に大きな陰をつくる大木を植えたので夏の日差しが強い時、冬の風がつよく大雪の時、一門のこの木陰に隠れないだろうか。