- 表題
- -
- 伊勢物語
おきのゐて身をやくよりもかなしきは
みやこしまべの別れなりけり
赤く焼けた炭が身について体をやくのは辛いけれど、それよりも悲しいのは都島のあたりで帰って行くあなたと別れることだ。
むつましと君は白浪瑞垣の
久しき世よりいはひそめてき
あなたに対して親しい気持ちを持っていると、あなたは知らないだろうがこの海岸に白浪が寄せ神社に垣根がめぐらされた遠い昔から、みかどの御世を祝福しはじめていた。
玉かづらはふ木あまたになりぬれば
絶えぬ心のうれしげもなし
つる草は多くの木にはいまつわるが、かづらのように通う女のところが多くなっているので、私のことを絶えず気にかけてくれる気持ちを聞いても一向に嬉しくない。
鶯の花をぬふてぬ笠はいな
おもひをつけよほしてかへさむ
鶯(うぐいす)が花をぬって作るという梅の花笠はいりません。あなたの思いをつけてください。火で濡れた着物を乾かして感謝の思いを返しましょう。
野とならば鶉となりて鳴きをらむ
かりにだにやは君は来ざらむ
荒れ果てた草深い野となるなら私は悲しい顔をして鶉(うずら)になって鳴いているでしょう。そうすればあなたは狩りにだけでも来てくださるでしょうか。
つひにゆく道とはかねてききしかど
昨日今日とは思はざりしを
死ぬというのは人間最後には行く道と前々から聞いていたが、それはずっと先のことで昨日、今日というさしせまったこととは思わなかった。