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宿近く移して植ゑしかひもなく
待ち遠にのみにほふ花かな

歌の意味
家の近くに移し植えた甲斐もなく、待ち遠しく思うほど遅れてばかり咲く花であることよ。
鑑賞
巻第一 春歌上 17

詞書「前栽に紅梅を植ゑて、又の春遅く咲きければ」
 身近で花を楽しもうと庭に移し植えた紅梅が、翌春なかなか咲かないのをもどかしく思う歌である。近くに植えたのに遠く待たされるという、近さと遠さの対比に面白みがある。
 詞書によれば、庭の植え込みに紅梅を植えたところ、翌年の春、花が咲くのが遅かったので詠んだ歌である。
 作者の藤原兼輔は藤原利基の子で、中納言に至った。賀茂川の堤に邸があったことから堤中納言と呼ばれた。紫式部の曾祖父にあたり、三十六歌仙の一人である。

 初句「宿近く」は、家のすぐ近くを示し、結句の「待ち遠」と対をなしている。
 二句「移して植ゑし」は、紅梅をよそから庭に移し植えたことを表す。兼輔邸の紅梅は、巻末の第四十六首の詞書にも見え、本巻の首尾に兼輔の紅梅が配されている。
 三句「かひもなく」は、移し植えた甲斐もなく、の意である。
 四句「待ち遠にのみ」は、待ち遠しく思うばかりで、の意で、初句の「近く」と対比している。
 結句「にほふ花かな」の「にほふ」は花が美しく咲き映える意で、「かな」は詠嘆を表す。

せんざい:庭の植え込み、また植え込みの草木
にほふ:花が美しく咲き映える
作者
藤原兼輔
出典
後撰和歌集
前の歌
なほざりに折りつるものを梅の花 濃き香に我や衣染めてむ
次の歌
春霞たなびきにけり久方の 月の桂も花や咲くらむ