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心もて折るかはあやな梅の花
香をとめてだに訪ふ人のなき

歌の意味
自分の心から折られたわけではないのに、筋の通らないことだ。梅の花の香りを求めてさえ、訪ねてくる人がいないとは。
鑑賞
巻第一 春歌上 29

詞書「男につきて他に移りて」
 男について住まいを移った女が、自分を折られて移された梅の花になぞらえ、その香を慕って訪ねてくる人さえいないことを嘆いた歌である。自ら望んで移ったわけではないのに、という心の訴えが込められている。
 詞書によれば、男に従ってほかの所へ移り住んだときの歌である。もとの住まいの人々から訪れがないことを恨んでいると読める。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「心もて」は、自分の心から、自ら望んで、の意を表す。
 二句「折るかはあやな」の「かは」は反語で、自ら望んで折られたのか、そうではない、の意を表す。「あやな」は、筋が通らない、の意である。
 三句「梅の花」は、折られて移された我が身をたとえている。
 四句「香をとめてだに」の「とめて」は求めて、「だに」は〜さえの意で、香を慕ってさえ、と訪れの少なさを強調している。
 結句「訪ふ人のなき」は連体形で止め、訪ねてくる人のないことを詠嘆している。本巻の第二十四首の待つ人が来ない嘆きとも通じている。

とむ:求める、探し求める
とふ:訪ねる、見舞う
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
梅の花折ればこぼれぬ我が袖に にほひ香移せ家づとにせん
次の歌
人心憂さこそまされ春立てば とまらず消ゆるゆき隠れなむ