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石上ふるの山辺の桜花
植ゑけむ時を知る人ぞなき

歌の意味
石上の布留の山辺に咲く、古びた桜の花よ。それを植えた時を知る人はもういない。
鑑賞
巻第二 春歌中 49

詞書「大和の布留の山をまかるとて」
 大和の布留の山を通りかかり、古くから咲き続ける桜を見て、それを植えた時を知る人はもういないと詠んだ歌である。地名の「布留」に「古る」を響かせ、桜の古さと過ぎ去った長い歳月への感慨を表している。
 詞書によれば、大和国の布留の山を通って行くときに詠んだものである。布留には石上神宮があり、古くからの由緒ある土地として知られていた。
 作者の遍昭は俗名を良岑宗貞という。桓武天皇の孫で、良岑安世の子にあたる。仁明天皇に仕えたが、天皇の崩御を機に出家し、のちに僧正に至った。素性法師の父で、六歌仙、三十六歌仙の一人である。

 初句「石上」は、「ふる」にかかる枕詞である。石上は布留の地を含む一帯の地名でもある。
 二句「ふるの山辺の」の「ふる」は、地名の「布留」と、古くなる意の「古る」を掛けた掛詞である。前歌までの庭先の景から、大和の歌枕へと場面が移っている。
 三句「桜花」は、布留の山辺に咲く桜を示す。本巻ではここから桜の歌が多く続いていく。
 四句「植ゑけむ時を」の「けむ」は過去推量で、植えたであろう時を、の意である。本巻の第四十七首が自ら植えた梅を詠んだのに対し、本歌は誰が植えたとも知れない古い桜を詠んでおり、対照をなしている。
 結句「知る人ぞなき」の「ぞ」は係助詞で、連体形「なき」と係り結びをなし、知る人のいないことを強調している。

ふる:地名の「布留」と、古くなる意の「古る」を掛ける
まかる:行く、通って行く
作者
遍昭
出典
後撰和歌集
前の歌
竹近く夜床寝はせじ鴬の 鳴く声聞けば朝寝せられず
次の歌
山守はいはばいはなむ高砂の 尾上の桜折りてかざさむ