見ぬ人の形見がてらは折らざりき
身になずらへる花にしあらねば
- 歌の意味
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会えない人の形見をかねてと思って折ったのではない。この花は我が身になぞらえられるような花ではないのだから。
- 鑑賞
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巻第二 春歌中 52
詞書「返し」
前歌で、贈られた桜を会えない人の形見として見ると心が慰まないと詠まれたのに対し、形見のつもりで折ったのではない、この美しい花は私になぞらえられるものではないと返した歌である。相手の言葉を軽くかわしつつ、花の美しさをたたえ、自らを謙遜している。
前歌の第五十一首と贈答をなす。桜を贈った伊勢が、受け取った友人の歌に答えたものである。
作者の伊勢は伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の中宮温子に仕えた。宇多天皇の寵愛を受け、のちに敦慶親王との間に中務をもうけた。三十六歌仙の一人である。
初句「見ぬ人の」は、会えずにいる人、すなわち伊勢自身を指している。前歌が贈り主に会えない嘆きを詠んだのを受けている。
二句「形見がてらは」の「がてら」は、〜をかねて、の意で、形見をかねて、の意を表す。前歌の第五十一首の「形見」の語をそのまま受けている。
三句「折らざりき」の「き」は過去の助動詞で、折ったのではなかった、と打ち消している。ここで句切れとなる。
四句「身になずらへる」の「なずらふ」は、比べる、なぞらえる意で、我が身になぞらえられる、の意である。
結句「花にしあらねば」の「し」は強意で、そのような花ではないのだから、と理由を示す。美しい桜を自分になぞらえることを退け、謙遜している。
なずらふ:比べる、なぞらえる
かたみ:離れた人や亡き人を思い出すよすがとなる品
- 作者
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伊勢
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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桜花色は等しき枝なれど 形見に見れば慰まなくに
- 次の歌
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吹く風をならしの山の桜花 のどけくぞ見る散らじと思へば