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木にも生ひず羽も並べで何しかも
波路隔てて君を聞くらん

歌の意味
連理の枝として一つの木に生えることもなく、比翼の鳥として羽を並べることもなくて、どうして波路を隔てた遠い所で、あなたのことを聞くばかりなのだろうか。
鑑賞
巻第八 雑歌上 482

詞書「中宮の長恨歌の御屏風に」
 連理の枝として生えることも、比翼の鳥として羽を並べることもかなわず、どうして海を隔てた所であなたの噂を聞くばかりなのだろうかと詠む歌である。詞書から、中宮温子の長恨歌の屏風に添えた歌とわかる。白居易の長恨歌で、死後に海上の仙山に住む楊貴妃が、玄宗皇帝と交わした「天にあっては比翼の鳥、地にあっては連理の枝」という誓いを思う場面を踏まえ、楊貴妃の立場から、果たせなかった誓いの悲しみを詠んでいる。本巻の第四百八十七首も、長恨歌の幻術士を踏まえた歌である。
 作者の「伊勢」は、平安時代前期から中期の女流歌人で、藤原継蔭の娘である。宇多天皇の中宮温子に仕え、中務の母となった。三十六歌仙に数えられる。

 初句「木にも生ひず」は、一つの木として生えることもなく、の意で、六音の字余りである。長恨歌の連理の枝を踏まえている。
 二句「羽も並べで」は、羽を並べることもなくて、の意で、長恨歌の比翼の鳥を踏まえている。「で」は打消の接続助詞である。
 三句「何しかも」は、どうして、の意で、「か」は疑問の係助詞である。
 四句「波路隔てて」は、海路を隔てて、の意で、楊貴妃が住むとされる海上の仙山と、玄宗のいる都との隔たりをいう。
 結句「君を聞くらん」は、あなたのことを噂に聞くばかりなのだろうか、の意で、係助詞「か」を受けて連体形の「らん」で結んでいる。

なみぢ:海路
ちやうごんか:長恨歌。唐の白居易が玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋をうたった長編の詩
作者
伊勢
出典
拾遺和歌集
前の歌
憂き世には門させりとも見えなくに などか我が身の出でがてにする
次の歌
ささなみや近江の宮は名のみして 霞たなびき宮木守なし