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待ちわびて恋しくならば尋ぬべく
跡なき水の上ならで行け

歌の意味
待ちわびて恋しくなったら、跡をたどって尋ねて行けるように、跡の残らない水の上ではない道を行ってほしい。
鑑賞
巻第十九 離別歌 1339

詞書「ものへまかりける人につかはしける」
 待ちわびて恋しくなったら尋ねて行けるように、跡のない水の上ではない道を行け、と詠んだ歌である。旅立つ人に、跡の残る陸路を行ってくれれば、恋しくなったときに後を追って尋ねて行けると、別れがたい思いを機知に託している。
 詞書によれば、どこかへ旅立つ人に送った歌である。本巻ではこの後、舟で旅立つ人との贈答が続いている。
 作者の伊勢は、伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の女御藤原温子に仕えた。宇多天皇の寵を受け、のちに敦慶親王との間に中務を生んだ。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き葦のふしの間も」の歌が採られている。

 初句「待ちわびて」は、帰りを待ちわびて、の意である。
 二句「恋しくならば」は、恋しくなったら、の意で、「ば」は仮定を表す。
 三句「尋ぬべく」は、尋ねて行けるように、の意で、「べく」は可能を表す。
 四句「跡なき水の」は、通った跡の残らない水の、の意で、舟の通った跡が残らないことをいう。
 結句「上ならで行け」は、上ではない道を行け、の意で、命令形で結んでいる。

まちわぶ:待ちくたびれる、待ちあぐむ
作者
伊勢
出典
後撰和歌集
前の歌
紅葉葉を幣と手向けて散らしつつ 秋とともにや行かむとすらん
次の歌
来むと言ひて別るるだにもあるものを 知られぬ今朝のましてわびしさ