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春来れば木隠れ多き夕月夜
おぼつかなしも花陰にして

歌の意味
春が来ると、木々に隠れることの多い夕月夜は、花の陰になって、いっそうぼんやりとおぼつかない。
鑑賞
巻第二 春歌中 62

詞書「題しらず」
 春になって木々が茂り、花に隠れがちな夕月の光が、いっそうおぼつかなく見えると詠んだ歌である。花の陰にかすむ夕月の淡い光に、春の夜の朧な情趣をとらえている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。

 初句「春来れば」は、春が来ると、の意である。本巻の第五十五首も同じ「春来れば」を三句に置いている。
 二句「木隠れ多き」は、木々に隠れることが多い、の意で、花や若葉が茂って月を隠すさまを表す。
 三句「夕月夜」は、夕方の空に見える月、またその月の出ている夜を示す。
 四句「おぼつかなしも」の「おぼつかなし」は、ぼんやりとしてはっきりしない意で、「も」は詠嘆を表す。ここで句切れとなる。
 結句「花陰にして」は、花の陰になって、の意で、月がおぼつかない理由を示す倒置となっている。

こがくれ:木の陰に隠れること
ゆふづくよ:夕方の月、また月の出ている夕べ
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
咲き咲かず我になつげそ桜花 人づてにやは聞かんと思ひし
次の歌
立ち渡る霞のみかは山高み 見ゆる桜の色も一つを