もえ渡るなげきは春のさがなれば
おほかたにこそあはれとも見れ
- 歌の意味
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一面に萌え立ち燃え広がる嘆きは春のならいなのだから、世間によくあることとして、気の毒に思って見るだけだ。
- 鑑賞
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巻第二 春歌中 66
詞書「春雨の降らば思ひの消えもせでいとどなげきの芽をもやすらん、といふ古歌の心ばへを、女に言ひつかはしたりければ」
春雨が降っても思いの火は消えず、かえって嘆きの芽を燃やすだろうという古歌の趣を男から言い送られた女が、萌え渡る嘆きは春のならいだから、ありふれたこととして気の毒に思うだけだと、そっけなく返した歌である。男の訴えを春の自然のならいにすり替え、軽くあしらっている。
詞書によれば、春雨が降れば思いの火も消えずにかえって嘆きの芽を萌やすだろうという古歌の心を、男が女に言い送ったので、女が答えたものである。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。
初句「もえ渡る」の「もえ」は、木の芽が「萌え」る意と、思いが「燃え」る意を掛けた掛詞である。前歌の第六十五首の「もゆ」を受けている。
二句「なげきは春の」の「なげき」は、「嘆き」と「投げ木」を掛けた掛詞で、木が春に萌え出るように嘆きが募るさまを表す。
三句「さがなれば」の「さが」は、生まれつきの性質、ならいの意で、春のならいなのだから、と理由を示す。
四句「おほかたにこそ」の「おほかた」は、世間一般、ありふれたことの意で、「こそ」は係助詞として結句の已然形「見れ」と係り結びをなす。
結句「あはれとも見れ」は、気の毒だと思って見るだけだ、の意で、「こそ」を受けて已然形で結ぶ。男の嘆きを我が事として受けとめない、そっけない態度を表している。
もゆ:芽が出る意の「萌ゆ」と、思いが「燃ゆ」を掛ける
なげき:「嘆き」と、薪にする木の「投げ木」を掛ける
さが:生まれつきの性質、ならい
おほかた:世間一般、ありふれたこと
ふるうた:古い時代の歌
こころばへ:趣、心の向け方
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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なげきさへ春を知るこそわびしけれ もゆとは人に見えぬものから
- 次の歌
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青柳のいとつれなくもなりゆくか いかなる筋に思ひよらまし