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しのびかねなきてかはづの惜しむをも
知らずうつろふ山吹の花

歌の意味
こらえきれずに鳴いて、蛙が惜しんでいるのも知らないで、散り移ろっていく山吹の花よ。
鑑賞
巻第三 春歌下 122

詞書「人の心頼み難くなりければ、山吹の散りさしたるを、これ見よとてつかはしける」
 こらえきれずに鳴いて惜しむ蛙の思いも知らずに、散り移ろっていく山吹の花を詠んだ歌である。泣いて惜しむ蛙に自分を、移ろう山吹に心変わりする相手をなぞらえ、恨みを伝えている。
 詞書によれば、相手の心が頼みにしにくくなったので、散りかけた山吹を、これを見よと言って贈ったものである。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。

 初句「しのびかね」は、こらえきれずに、の意である。
 二句「なきてかはづの」の「なき」は、蛙が「鳴き」と、人が「泣き」を掛けた掛詞で、蛙に作者自身を重ねている。本巻の第百四首も、かはづと山吹を取り合わせている。
 三句「惜しむをも」は、蛙が花の散るのを惜しんでいることをも、の意である。
 四句「知らずうつろふ」の「うつろふ」は、花が散り色あせる意と、人の心が変わる意を掛けている。前歌の第百二十一首も「うつろふ」の語で岸の山吹を詠んでいる。
 結句「山吹の花」は体言止めで、本巻の第百四首と同じ結句である。詞書の散りかけた山吹そのものを示している。

なく:蛙が「鳴く」意と、人が「泣く」意を掛ける
うつろふ:花が散り色あせる意と、人の心が変わる意を掛ける
ちりさす:散りかける
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
花盛りまだも過ぎぬに吉野河 影にうつろふ岸の山吹
次の歌
折りつればたぶさに汚る立てながら 三世の仏に花たてまつる