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色深くにほひし事は藤浪の
たちもかへらで君とまれとか

歌の意味
藤の花がこれほど色深く咲き映えていたのは、藤波が寄せては返すようには、あなたが立ち帰ることなく、ここにとどまれというのだろうか。
鑑賞
巻第三 春歌下 126

詞書は前の歌に続き「弥生の下の十日ばかりに、三条右大臣、兼輔の朝臣の家にまかりて侍りけるに、藤の花咲ける遣水のほとりにて、かれこれ大御酒たうべけるついでに」
 藤の花がこれほど色深く咲き映えていたのは、あなたに帰らずとどまれというためだろうかと、主人として客の定方を引きとめた歌である。藤波の「立ち返る」に客が席を立って帰る意を重ね、もてなしの心を表している。
 第百二十五首から本歌までの三首は、藤原兼輔の家での藤の宴で、主客と貫之がそれぞれ藤の色の深さを詠み交わした一連である。
 作者の「兼輔朝臣」は藤原兼輔である。藤原利基の子で、中納言に至った。賀茂川の堤に邸を構えたことから堤中納言と呼ばれ、紀貫之や凡河内躬恒らを庇護した。紫式部の曽祖父にあたり、三十六歌仙の一人である。

 初句「色深く」は、前歌の第百二十五首の「色の深さ」を受けている。
 二句「にほひし事は」の「にほふ」は色美しく咲き映える意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
 三句「藤浪の」の「藤浪」は藤の花房の揺れを波に見立てた語で、波の縁から「たち」「かへら」を導いている。本巻の第百二十四首も「藤波」で結ばれている。
 四句「たちもかへらで」は、波が「立ち返る」意と、客が席を「立ち帰る」意を掛けた掛詞である。「で」は打消の接続で、帰らずに、の意を表す。
 結句「君とまれとか」の「とか」は、〜というのか、の意である。本巻の第百五首の「君とまりけり」と同じく、花のもとに人がとどまることを詠んでいる。

たちかへる:波が寄せては返る意と、人が席を立って帰る意を掛ける
作者
藤原兼輔
出典
後撰和歌集
前の歌
限りなき名に負ふふちの花なれば 底ひも知らぬ色の深さか
次の歌
棹させど深さも知らぬふちなれば 色をば人も知らじとぞ思ふ