古典和歌stream

一夜のみ寝てし帰らば藤の花
心解けたる色見せんやは

歌の意味
ただ一夜だけ泊まってお帰りになるのなら、藤の花も、心からうちとけた色を見せるだろうか、いや見せはしない。
鑑賞
巻第三 春歌下 129

詞書は前の歌に続き「琴笛などして遊び、物語などし侍りけるほどに、夜更けにければまかりとまりて」
 一夜だけ泊まって帰ってしまうなら、藤の花も心からうちとけた色は見せまいと、主人として客の逗留をさらに求めた歌である。前歌の「寝て」「色」を受け、もっとゆっくりしていってほしいという思いを藤に託している。
 第百二十八首から第百三十首までの三首は、前の三首と同じ宴が夜更けまで続き、定方が泊まった翌朝に詠み交わされた一連である。
 作者の「兼輔朝臣」は藤原兼輔である。藤原利基の子で、中納言に至った。賀茂川の堤に邸を構えたことから堤中納言と呼ばれ、紀貫之や凡河内躬恒らを庇護した。紫式部の曽祖父にあたり、三十六歌仙の一人である。

 初句「一夜のみ」は、ただ一夜だけ、の意で、前歌の第百二十八首の一夜寝たことを受けている。
 二句「寝てし帰らば」の「し」は強意、「ば」は仮定で、寝てすぐ帰るのなら、の意である。
 三句「藤の花」は、主人の家の藤を示し、主人自身の心をも重ねている。
 四句「心解けたる」は、うちとけた、の意で、花が開くさまに心がほどけるさまを重ねている。本巻の第百首の「うらとけて」も、心がうちとけることを詠んでいる。
 結句「色見せんやは」の「やは」は反語で、見せるだろうか、いや見せはしない、の意である。

ひとよ:一夜
作者
藤原兼輔
出典
後撰和歌集
前の歌
昨日見し花の顔とて今朝見れば 寝てこそさらに色まさりけれ
次の歌
朝ぼらけ下行く水は浅けれど 深くぞ花の色は見えける