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桜色に着たる衣の深ければ
過ぐる春日も惜しけくもなし

歌の意味
桜の色に深く染めた衣を着ているので、過ぎてゆく春の日も、惜しいとは思わない。
鑑賞
巻第三 春歌下 134

詞書「桜の散るを見て」
 桜の散るのを見ても、桜色に深く染めた衣を着ているので、過ぎてゆく春も惜しくはないと詠んだ歌である。花の色を衣に移して身にまとうことで、散る花への未練を慰めている。
 詞書によれば、桜の散るのを見て詠んだものである。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
 古今和歌集の紀有朋の「桜色に衣は深く染めて着む花の散りなむのちの形見に」は、散ったのちの形見に衣を桜色に染めようと詠んでおり、本歌はそれを実際に着ている者の立場から詠んだ形になっている。

 初句「桜色に」は、六音の字余りで、桜の花の色に、の意である。
 二句「着たる衣の」は、身にまとっている衣を示す。本巻の第百八首も、山吹の色に劣らない衣を詠んでいる。
 三句「深ければ」は、色が深いので、の意で、理由を示す。
 四句「過ぐる春日も」は、過ぎてゆく春の日を示す。本巻ではこのあと、三月の終わりに春を惜しむ歌が続いていく。
 結句「惜しけくもなし」の「惜しけく」は「惜し」に「く」がついて名詞化した形で、惜しいこともない、の意である。本巻の第八十四首などの「惜しき春かな」とは反対に、春を惜しまないと言い切っている。

はるひ:春の日
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
散ることの憂きも忘れてあはれてふ 事を桜に宿しつるかな
次の歌
余りさへありて行くべき年だにも 春に必ず逢ふよしもがな