夏の夜に恋しき人の香をとめば
花橘ぞしるべなりける
- 歌の意味
-
夏の夜に恋しい人の香りを尋ね求めるならば、花橘こそが道しるべであったよ。
- 鑑賞
-
巻第四 夏歌 188
詞書「題しらず」
夏の夜に恋しい人の香りを尋ね求めるなら、花橘こそが道しるべであったと詠んだ歌である。花橘の香りに恋しい人の袖の香を感じ取り、その香りをたどって人を慕う心を表している。
古今和歌集のよみ人しらずの歌「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」以来、花橘の香りは昔の人や恋しい人を思い起こさせるものとして詠まれてきた。本歌もその趣向を踏まえている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「夏の夜に」は、夏の夜に、の意で、花橘の香りが漂う季節と時刻を示している。
二句「恋しき人の」は、恋しく思う人の、の意である。
三句「香をとめば」の「とむ」は、尋ね求める意で、「ば」は仮定を表し、香りを尋ね求めるならば、の意である。
四句「花橘ぞ」は、花橘こそが、の意で、「ぞ」は強意の係助詞である。本巻の第百八十六首に続き、花橘を詠んでいる。
結句「しるべなりける」は、道しるべであったよ、の意で、連体形「ける」が四句の「ぞ」と係り結びをなす。
とむ:尋ね求める、探す
しるべ:道案内、手引き
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
旅寝して妻恋ひすらし郭公 神なび山にさ夜更けて鳴く
- 次の歌
-
郭公はつかなる音を聞きそめて あらぬもそれとおぼめかれつつ