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八重葎茂き宿には夏虫の
声より外に訪ふ人もなし

歌の意味
八重葎が生い茂っている家には、夏の虫の声のほかに、訪れる人もいない。
鑑賞
巻第四 夏歌 194

詞書「題しらず」
 八重葎が生い茂る家には、夏の虫の声のほかに訪れる人もいないと詠んだ歌である。荒れた住まいの寂しさを、虫の声だけが響くさまによって表している。
 葎の茂る宿の寂しさは、のちに恵慶法師の「八重葎茂れる宿の寂しきに人こそ見えね秋は来にけり」にも詠まれ、本歌と同じ趣を秋に移している。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「八重葎」は、幾重にも生い茂るつる草で、荒れた家の象徴である。
 二句「茂き宿には」は、生い茂っている家には、の意で、人の訪れのない荒れた住まいを示す。
 三句「夏虫の」は、夏の虫の、の意で、本巻の第百九十二首、第百九十三首の蝉に続いて、夏の虫を詠んでいる。本巻の第二百九首、第二百十三首にも「夏虫」が詠まれている。
 四句「声より外に」は、声のほかには、の意である。
 結句「訪ふ人もなし」は、訪れる人もいない、の意である。本巻の第百五十四首の「来て訪ふ人のなきかな」と同じく、訪れのない寂しさを詠んでいる。

やへむぐら:幾重にも生い茂るつる草、荒れた家の象徴
なつむし:夏の虫、蝉や蛍など
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
常もなき夏の草葉に置く露を 命と頼む蝉のはかなさ
次の歌
空蝉の声聞くからに物ぞ思ふ 我も空しき世にし住まへば