にはかにも風の涼しくなりぬるか
秋立つ日とはむべも言ひけり
- 歌の意味
-
急に風が涼しくなったことだ。秋が立つ日とは、なるほどよく言ったものだ。
- 鑑賞
-
巻第五 秋歌上 217
詞書「是貞の親王の家の歌合に」
立秋の日に急に風が涼しくなったことに驚き、秋が立つ日とはなるほどよく言ったものだと感じ入った歌である。暦の上の秋の始まりを、肌に感じる風の涼しさで確かめている。
詞書によれば、光孝天皇の皇子是貞親王の家で行われた歌合で詠まれたものである。秋歌の巻頭に置かれ、立秋の風によって秋の始まりを告げている。古今和歌集の藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども」も、立秋の訪れを風の音で知る趣向で、同じく秋の巻頭に置かれている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「にはかにも」は、急に、の意で、季節の変わり目を突然に感じた驚きを表す。次歌の第二百十八首も初句に「打ちつけに」を置き、同じく秋の訪れを不意に感じる心で始まっている。
二句「風の涼しく」は、風が涼しく、の意で、秋の訪れを告げる風を示す。本巻ではこのあと秋風を詠む歌が多く並んでいる。
三句「なりぬるか」の「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形、「か」は詠嘆の終助詞で、なったことだなあ、の意である。ここで句切れとなる。
四句「秋立つ日とは」は、秋が立つ日とは、の意で、立秋を指す。
結句「むべも言ひけり」の「むべ」は、なるほど、もっともだ、の意、「けり」は気づきの詠嘆で、なるほどよく言ったものだ、と感じ入る心を表している。
あきたつ:暦の上で秋が始まる、立秋を迎える
うたあはせ:歌人を左右に分けて歌を詠み比べ、優劣を競う催し
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
七夕は天の河原を七かへり 後のみそかを禊にはせよ
- 次の歌
-
打ちつけに物ぞ悲しき木の葉散る 秋の初めを今日ぞと思へば