朝戸開けてながめやすらん七夕は
飽かぬ別れの空を恋ひつつ
- 歌の意味
-
朝の戸を開けて、物思いにふけりながら空を眺めているのだろうか、織女は。名残の尽きない別れをした空を恋しく思いながら。
- 鑑賞
-
巻第五 秋歌上 249
詞書「同じ心を」
織女は朝の戸を開けて、名残の尽きない別れをした空を恋しく思いながら、物思いにふけって眺めているのだろうかと思いやった歌である。別れの翌朝の織女の姿を想像し、その寂しさに寄り添っている。
詞書によれば、前歌と同じ心、すなわち七月八日の朝の思いを詠んだものである。前歌が帰りゆく織女を引き留める波を願ったのに対し、本歌は帰った後の織女の心を思いやっている。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐守などを務め、土佐日記の作者としても知られる。三十六歌仙の一人である。
初句「朝戸開けて」は、朝の戸を開けて、の意で、字余りである。
二句「ながめやすらん」の「ながめ」は、物思いにふけりながらぼんやりと見やる意で、「や」は疑問の係助詞、「らん」は現在推量の助動詞の連体形で係り結びをなす。ここで句切れとなる。
三句「七夕は」は、織女は、の意で、二句と倒置の関係にある。
四句「飽かぬ別れの」は、名残の尽きない別れの、の意で、本巻の第二百四十七首の「飽かぬ別れを」と同じ語を用いている。
結句「空を恋ひつつ」は、空を恋しく思いながら、の意で、「つつ」は継続を表す。別れた天の川の空を恋う心を示している。
あさと:朝に開ける戸
ながむ:物思いにふけりながらぼんやりと見やる
- 作者
-
紀貫之
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
七夕の帰る朝の天の河 舟も通はぬ波も立たなん
- 次の歌
-
秋風の吹けばさすがにわびしきは 世のことわりと思ふものから