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花見にと出でにしものを秋の野の
霧に迷ひて今日は暮らしつ

歌の意味
花を見にと出かけたのに、秋の野の霧に迷って、今日は一日を暮らしてしまった。
鑑賞
巻第六 秋歌中 272

詞書は前の歌に続き「延喜御時に、秋歌召しければ奉りける」
 秋の野の花を見ようと出かけたのに、霧に迷って一日を過ごしてしまったと詠んだ歌である。花を見るはずが霧の中をさまようことになった、思いがけない一日の興を表している。
 前歌に続いて秋霧を詠み、前歌が山を包む霧を遠くから眺めたのに対し、本歌は霧の中に身を置いている。
 作者の紀貫之は紀望行の子で、古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐守などを務め、土佐日記の作者としても知られる。三十六歌仙の一人である。

 初句「花見にと」は、花を見ようと、の意で、秋の野の草花を見に出かけたことを示す。
 二句「出でにしものを」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形、「ものを」は逆接の接続助詞で、出かけたのに、の意である。
 三句「秋の野の」は、秋の野の、の意である。本巻の第二百七十五首も同じ「秋の野の」で始まっている。
 四句「霧に迷ひて」は、霧に迷って、の意で、前歌の秋霧を受け、霧に道を失うさまを表している。
 結句「今日は暮らしつ」の「つ」は完了の助動詞で、今日は日が暮れるまで過ごしてしまった、の意である。

くらす:日が暮れるまで時を過ごす
作者
紀貫之
出典
後撰和歌集
前の歌
秋霧の立ちぬる時はくらぶ山 おぼつかなくぞ見えわたりける
次の歌
浦近く立つ秋霧は藻塩焼く 煙とのみぞ見えわたりける