白露の上はつれなくおきゐつつ
萩の下葉の色をこそ見れ
- 歌の意味
-
白露が葉の上に素知らぬ顔で置いているように、私も表向きはつれなく起きていながら、萩の下葉が色づくように、心の内で深く思う色を見ているのだ。
- 鑑賞
-
巻第六 秋歌中 285
詞書「相知りて侍りける女の、あだ名立ちて侍りければ、久しくとぶらはざりけり、八月ばかりに女のもとより、などかいとつれなきと言ひおこせて侍りければ」
白露が萩の葉の上に素知らぬ顔で置いているように、自分も表向きはつれなくしているが、萩の下葉が色づくように、心の内では深く思っていると訴えた歌である。「上」と「下」を対比させ、表向きのつれなさと内に秘めた思いとを示している。
詞書によれば、親しくしていた女に浮き名が立ったので、作者は久しく訪れなかったが、八月ごろ女のもとから、どうしてそんなにつれないのかと言ってきたので詠んだものである。次歌は伊勢の返歌で、相手の女が伊勢であったことがわかる。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。詞書から男の歌であることがわかる。
初句「白露の」は、白露が、の意で、次の「おく」を導いている。
二句「上はつれなく」の「上」は、葉の上の意と、表向き、うわべの意を重ねている。表向きは素知らぬ顔で、の意である。
三句「おきゐつつ」の「おき」は、露が「置く」意と、人が「起く」意を掛けた掛詞である。本巻の第二百八十三首の「おき明かす」と同じ掛詞で、第二百九十二首も「おきゐながらに」と用いている。
四句「萩の下葉の」の「下葉」は、下の方の葉の意と、心の内の意を重ね、二句の「上」と対をなしている。
結句「色をこそ見れ」は、色づくのを見ているのだ、の意で、係助詞「こそ」と已然形「見れ」が係り結びをなす。秋に色づく萩の下葉に、内に秘めた思いを託している。
おきゐる:露が「置き居る」意と、人が「起き居る」意を掛ける
したば:下の方の葉、秋に先に色づくものとされる
あだな:根拠のないうわさ、浮き名
とぶらふ:訪ねる、見舞う
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
今ははや打ち解けぬべき白露の 心おくまで夜をや経にける
- 次の歌
-
心なき身は草葉にもあらなくに 秋来る風に疑はるらん