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宿もせに植ゑなめつつぞ我は見る
招く尾花に人やとまると

歌の意味
家も狭いほどに尾花を植え並べて、私は眺めている。手招くような尾花に、人が立ち止まってくれるかと思って。
鑑賞
巻第六 秋歌中 289

詞書「返し」
 家も狭いほどに尾花を植え並べて眺めているのは、手招くような尾花に、訪れる人が立ち止まってくれるかと思うからだと返した歌である。前歌がしのぶ草で昔を懐かしんだのに対し、尾花で人の訪れを待つ心を詠んでいる。
 前歌の第二百八十八首と贈答をなす。
 作者の伊勢は伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の女御藤原温子に仕えた。宇多天皇の寵愛を受けて皇子を産み、のちに敦慶親王との間に中務をもうけた。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き葦のふしの間も」の歌が採られている。
 なお本文の二句は「植ゑなめつつぞ」とあり、読み仮名の行の「うゑなへつつそ」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。

 初句「宿もせに」は、家も狭いほどに、の意である。
 二句「植ゑなめつつぞ」の「なめ」は、並べる意の「並む」の連用形で、植え並べながら、の意である。「ぞ」は係助詞である。
 三句「我は見る」は、私は眺めている、の意で、二句の「ぞ」と連体形「見る」が係り結びをなす。ここで句切れとなる。前歌の結句「草をこそ見れ」に対し、尾花を見ると応じている。
 四句「招く尾花に」は、手招きするように風になびく尾花に、の意で、尾花を人を招くものと見立てている。
 結句「人やとまると」の「や」は疑問の係助詞で、人が立ち止まるかと、の意である。三句と倒置の関係にあり、尾花を植える理由を後から示している。

なむ:並べる、連ねる
をばな:穂の出たすすき
作者
伊勢
出典
後撰和歌集
前の歌
花すすきほに出づることもなき宿は 昔しのぶの草をこそ見れ
次の歌
秋の夜をいたづらにのみおき明かす 露はわが身の上にぞありける