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海にのみひちたる松の深緑
いくしほとかは知るべかるらん

歌の意味
海にばかり浸っている松の深い緑は、幾度染めたものか、いく潮浸ったものか、どうして知ることができようか。
鑑賞
巻第八 雑歌上 457

詞書「五条の尚侍の賀の屏風に、松の海に浸りたる所を」
 海にばかり浸っている松の深い緑は、幾度染めたものか誰にも知りようがないと詠む歌である。詞書から、五条の尚侍の長寿を祝う賀の屏風に、海に浸った松の描かれた場面に添えた歌とわかる。染め重ねるほどに濃くなる緑の色に、幾度も潮に浸ってきた年月の長さを重ね、祝われる人の長寿と徳の深さを言祝いでいる。前歌の第四百五十六首の千年の松に続き、長寿の松を詠んでいる。
 作者の「伊勢」は、平安時代前期から中期の女流歌人で、藤原継蔭の娘である。宇多天皇の中宮温子に仕え、中務の母となった。三十六歌仙に数えられる。

 初句「海にのみ」は、海にばかり、の意である。
 二句「ひちたる松の」は、浸っている松の、の意で、「ひち」は水に浸る意である。
 三句「深緑」は、深い緑色、の意で、ここで句切れとなる。
 四句「いくしほとかは」は、幾度染めたものかとは、の意である。「いくしほ」は染料に浸す回数をいう「幾入」と、海の「潮」とを掛けた掛詞である。「かは」は反語を表す係助詞である。
 結句「知るべかるらん」は、知ることができようか、いや知ることはできない、の意で、係助詞「かは」を受けて連体形の「らん」で結んでいる。計り知れない深さに長寿を重ねている。

ひつ:水に浸る
いくしほ:幾度染料に浸して染めたかの「幾入」と、海の「潮」を掛ける
ないしのかみ:尚侍。内侍司の長官
作者
伊勢
出典
拾遺和歌集
前の歌
音にのみ聞き渡りつる住吉の 松の千歳を今日見つるかな
次の歌
わたつみの波にも濡れぬ浮島の 松に心を寄せて頼まん