白露のおくにあまたの声すれば
花の色々ありと知らなん
- 歌の意味
-
白露が置く、その簾の奥にたくさんの声がするので。――花がさまざまな色に咲いていると知ってほしい。
- 鑑賞
-
巻第六 秋歌中 293
詞書「秋のころほひ、ある所に女どものあまた簾の内に侍りけるに、男の歌の本を言ひ入れて侍りければ、末は内より」
簾の奥からたくさんの声が聞こえると男が詠みかけたのに対し、内の女たちが、さまざまな色の花が咲いていると知ってほしいと応じた歌である。白露の置く草むらの奥に色とりどりの花を見立て、簾の内の女たちを花になぞらえている。
詞書によれば、秋のころ、ある所で女たちが大勢簾の内にいたところ、男が歌の上の句を言い入れたので、下の句を内から付けたものである。上の句と下の句を二人で詠み合う連歌の形をとっている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。詞書から、上の句は男、下の句は簾の内の女たちによるものとわかる。
初句「白露の」は、白露が、の意で、次の「おく」を導いている。
二句「おくにあまたの」の「おく」は、露が「置く」意と、簾の「奥」の意を掛けた掛詞である。
三句「声すれば」は、声がするので、の意で、「ば」は理由を表す。ここまでが男の詠んだ上の句である。
四句「花の色々」は、花のさまざまな色、の意で、簾の内の女たちを花になぞらえている。ここから女たちの付けた下の句である。
結句「ありと知らなん」の「なん」は他に対する願望の終助詞で、あると知ってほしい、の意である。
おく:露が「置く」意と、簾の「奥」の意を掛ける
す:日よけや目隠しにかける、竹などを編んだすだれ
もと:歌の上の句
すゑ:歌の下の句
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
露ならぬわが身と思へど秋の夜を かくこそ明かせおきゐながらに
- 次の歌
-
暮れ果てば月も待つべし女郎花 雨やめてとは思はざらなん