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秋の夜に雁かも鳴きて渡るなり
わが思ふ人の言づてやせし

歌の意味
秋の夜に、雁が鳴いて渡っていくようだ。私の思う人が、言づてを託したのだろうか。
鑑賞
巻第七 秋歌下 356

詞書「越の方に思ふ人侍りける時に」
 秋の夜に雁が鳴いて渡っていく声が聞こえるが、越の国にいる恋しい人が言づてを託したのだろうかと詠んだ歌である。北から渡ってくる雁に、遠くにいる人からの便りを期待する心を表している。
 詞書によれば、越の国、北陸の方に思う人がいたころに詠まれたものである。雁が便りを運ぶという「雁の使い」の故事を踏まえ、北の越から来る雁に便りを重ねている。
 作者の「つらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐守などを務め、土佐日記の作者としても知られる。三十六歌仙の一人である。

 初句「秋の夜に」は、秋の夜に、の意である。
 二句「雁かも鳴きて」の「かも」は疑問を含んだ詠嘆で、雁が鳴いて、の意である。
 三句「渡るなり」の「なり」は音や声によって推定する助動詞で、渡っていくようだ、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「わが思ふ人の」は、私が恋しく思う人が、の意で、越の国にいる人を指す。
 結句「言づてやせし」の「や」は疑問の係助詞、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、言づてを託したのだろうか、の意である。

ことづて:人に頼んで伝える言葉、伝言
こし:越の国、今の北陸地方
作者
紀貫之
出典
後撰和歌集
前の歌
秋風に誘はれわたる雁がねは 雲居はるかに今日ぞ聞こゆる
次の歌
秋風に雲飛びわけて来る雁の 千世に変はらぬ声聞こゆなり