秋ごとに来れど帰ればたのまぬを
声に立てつつかりとのみ鳴く
- 歌の意味
-
秋ごとにやって来るけれども帰ってしまうので、あてにはしていないのに、声に出しながら、仮だとばかり鳴くことだ。
- 鑑賞
-
巻第七 秋歌下 363
詞書「題しらず」
雁は秋ごとにやって来るが、また帰ってしまうので、あてにはしていないのに、わざわざ声に出して「かり」とばかり鳴くと詠んだ歌である。いずれ去っていく雁を、通ってきてはまた離れていく恋人の姿に重ねている。
前歌に続いて、雁の鳴き声を「仮」と聞きなす歌である。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「秋ごとに」は、秋が来るたびに、の意である。本巻の第四百三十五首も同じ初句「秋ごとに」で、雁を詠んでいる。
二句「来れど帰れば」は、やって来るけれども帰ってしまうので、の意である。
三句「たのまぬを」は、あてにはしていないのに、の意で、「を」は逆接の接続助詞である。
四句「声に立てつつ」は、声に出しながら、の意である。
結句「かりとのみ鳴く」の「かり」は、鳥の「雁」と、かりそめの意の「仮」を掛けた掛詞で、仮だとばかり鳴く、の意である。前歌の結句「かりかりと鳴く」と同じ掛詞である。
かり:鳥の「雁」と、かりそめの意の「仮」を掛ける
たのむ:あてにする、頼みにする
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
行き帰りここもかしこも旅なれや 来る秋ごとにかりかりと鳴く
- 次の歌
-
ひたすらにわが思はなくにおのれさへ かりかりとのみ鳴きわたるらん