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数知らず君が齢を延ばへつつ
名立たる宿の露とならなん

歌の意味
数え切れないほど、あなたの寿命を延ばしながら、名高いこの宿の露となってほしい。
鑑賞
巻第七 秋歌下 394

詞書「隣に住み侍りける時、九月八日、伊勢が家の菊に綿を着せにつかはしたりければ、又の朝、折りて返すとて」
 この菊の露が、数え切れないほどあなたの寿命を延ばし続けて、名高いこの宿の露となってほしいと詠んだ歌である。菊の露が長寿をもたらすという考えを踏まえ、相手の長寿を祝っている。
 詞書によれば、隣に住んでいたころ、九月八日に、藤原雅正が伊勢の家の菊に綿を着せるために綿を届けてきたので、翌朝、その菊を折って返すときに詠んだものである。重陽の節句の前夜に菊に綿をかぶせ、翌朝その露を含んだ綿で体をぬぐうと長寿を得るという「着せ綿」の風習による。次歌と贈答をなしている。
 作者の伊勢は伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の女御藤原温子に仕えた。宇多天皇の寵愛を受けて皇子を産み、のちに敦慶親王との間に中務をもうけた。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き葦のふしの間も」の歌が採られている。

 初句「数知らず」は、数え切れないほど、の意である。
 二句「君が齢を」は、あなたの寿命を、の意である。
 三句「延ばへつつ」は、延ばし続けながら、の意である。
 四句「名立たる宿の」は、名高い宿の、の意で、菊で知られた伊勢の家を指している。次歌の二句も同じ「名立たる宿の」で応じている。
 結句「露とならなん」の「なん」は願望の終助詞で、露となってほしい、の意である。

きせわた:重陽の節句の前夜に菊に綿をかぶせ、露を含ませて長寿を願う風習
よはひ:年齢、寿命
のばふ:延ばす、長くする
作者
伊勢
出典
後撰和歌集
前の歌
鏡山山かきくもりしぐるれど 紅葉あかくぞ秋は見えける
次の歌
露だにも名立たる宿の菊ならば 花の主やいく世なるらん