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初時雨降るほどもなく佐保山の
梢あまねくうつろひにけり

歌の意味
初時雨が降ってまもないのに、佐保山の梢は、すっかり一面に色が変わってしまったことだ。
鑑賞
巻第八 冬歌 444

詞書「題しらず」
 初時雨が降ってまもないのに、佐保山の梢は一面に色を変えてしまったと詠んだ歌である。時雨が木の葉を染めるという当時の考え方をもとに、わずかな時雨で山全体が色づいた驚きを表している。
 前歌が初時雨を聞いてまだ見ぬ山の紅葉を思いやったのに対し、本歌は佐保山という特定の山がすでに色づいた姿を詠んでおり、想像から実景へと移っている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。

 初句「初時雨」は、その冬に初めて降る時雨のことで、前歌の初句と同じ語を置いている。
 二句「降るほどもなく」は、降ってまもないのに、の意で、時雨の降った時間の短さを強調している。
 三句「佐保山の」は、奈良の東北にある山で、紅葉の名所として知られた歌枕である。秋の女神とされる佐保姫の山でもある。
 四句「梢あまねく」は、梢がすべて、一面に、の意である。
 結句「うつろひにけり」の「うつろふ」は色が変わる意で、「にけり」は完了と詠嘆を表し、色が変わってしまったことだ、の意である。

さほやま:奈良の東北にある山、紅葉の名所として知られる歌枕
こずゑ:木の枝の先
うつろふ:色が変わる、色あせる
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
初時雨降れば山べぞ思ほゆる いづれの方かまづもみづらん
次の歌
神無月降りみ降らずみ定めなき 時雨ぞ冬の始めなりける