人知れず君につけてしわが袖の
今朝しもとけず凍るなるべし
- 歌の意味
-
人知れずあなたに思いを寄せてきた私の袖が、霜の降りた今朝はとりわけ解けずに凍っているにちがいない。
- 鑑賞
-
巻第八 冬歌 463
詞書「冬の日、武蔵につかはしける」
人知れずあなたに思いを寄せてきた私の袖は、霜の降りた今朝はとりわけ解けずに凍っているにちがいないと詠んだ歌である。遠く離れた相手を思って流す涙で濡れた袖が、冬の寒さで凍るさまに託して、思いの深さを伝えている。
詞書によれば、冬の日に、武蔵の国にいる人に送った歌である。遠い東国にいる相手を思い、冬の朝の霜と氷に恋の涙を重ねている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「人知れず」は、人に知られないように、ひそかに、の意である。
二句「君につけてし」は、あなたに思いを寄せてきた、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
三句「わが袖の」は、私の袖が、の意で、恋の涙に濡れた袖をいっている。
四句「今朝しもとけず」の「しも」は、強めの副助詞「しも」と、冬の「霜」を掛けた掛詞で、霜の降りた今朝はとりわけ解けないで、の意である。
結句「凍るなるべし」の「なるべし」は断定と推量を表し、凍っているにちがいない、の意である。
しも:強めの副助詞「しも」と、冬の「霜」を掛ける
むさし:武蔵の国、現在の東京都と埼玉県のあたり
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
身をわけて霜や置くらん あだ人の言の葉さへにかれもゆくかな
- 次の歌
-
かきくらし霰降りしけ白玉を 敷ける庭とも人の見るべく