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夢にだに見ることぞなき年を経て
心のどかに寝る夜なければ

歌の意味
夢にさえあの人を見ることがない。何年もたつあいだ、心穏やかに寝る夜がないので。
鑑賞
巻第九 恋歌一 538

詞書「題しらず」
 何年も心穏やかに眠れる夜がないので、夢にさえあの人を見ることがない、と詠んだ歌である。恋の悩みに眠れず、夢で逢うことさえかなわない苦しさを表している。
 夢で逢うことを恋の慰めとする趣向で、本巻の第五百五十九首も夢の通い路に迷う嘆きを詠んでいる。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。

 初句「夢にだに」は、夢にさえ、の意で、「だに」は、さえ、の意である。
 二句「見ることぞなき」は、見ることがない、の意で、係助詞「ぞ」と連体形「なき」が係り結びをなしている。ここで句切れとなる。
 三句「年を経て」は、何年もたって、の意である。
 四句「心のどかに」は、心穏やかに、の意である。
 結句「寝る夜なければ」は、寝る夜がないので、の意で、二句の理由を倒置して示している。

ぬ:寝る、眠る
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
小止みせず雨さへ降れば沢水の まさるらんとも思ほゆるかな
次の歌
見初めずてあらましものを唐衣 たつ名のみして着る夜なきかな