絶え果つるものとは見つつささがにの
糸を頼める心細さよ
- 歌の意味
-
すっかり絶えてしまうものだとはわかっていながら、蜘蛛の糸のように細い縁を頼みにしている心細さよ。
- 鑑賞
-
巻第九 恋歌一 569
詞書「つらかりける男に」
すっかり絶えてしまうものと知りながら、蜘蛛の糸のような細い縁を頼みにしている心細さを詠んだ歌である。冷たくなった男との切れかけた縁を、はかない蜘蛛の糸にたとえている。
詞書によれば、薄情になった男に送った歌である。次歌は男の返歌で、二首は贈答の一組となっている。蜘蛛が巣をかけるのは恋人の訪れの前兆とされ、その俗信もふまえている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。
初句「絶え果つる」は、すっかり絶えてしまう、の意で、「絶え」は四句の「糸」の縁語である。次歌の結句「ことは絶えせじ」がこれを受けている。
二句「ものとは見つつ」は、ものだとはわかっていながら、の意である。
三句「ささがにの」は、蜘蛛のことで、「糸」を導く枕詞として用いられる。
四句「糸を頼める」は、蜘蛛の糸を頼みにしている、の意で、細い縁を頼むことをいっている。
結句「心細さよ」は、心細いことよ、の意で、体言止めで一首を結んでいる。「細さ」は糸の縁語である。
ささがに:蜘蛛、蜘蛛の糸
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
よそに降る雨とこそ聞けおぼつかな 何をか人のこひぢと言ふらん
- 次の歌
-
うち渡し長き心は八橋の 蜘蛛手に思ふことは絶えせじ