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うち渡し長き心は八橋の
蜘蛛手に思ふことは絶えせじ

歌の意味
橋をかけ渡すように長く続く私の心は、八橋の蜘蛛手のようにあれこれと思い乱れることはあっても、絶えることはないだろう。
鑑賞
巻第九 恋歌一 570

詞書「返し」
 長く続く私の心は、八橋の蜘蛛手のようにあれこれ思い乱れても、決して絶えはしない、と詠んだ歌である。前歌の蜘蛛の糸を受けて八橋の蜘蛛手に転じ、心が途絶えることはないと答えている。
 前歌への返歌である。前歌の「ささがにの糸」「絶え果つる」を受けて、「蜘蛛手」「絶えせじ」と返している。八橋は『伊勢物語』の東下りの段で知られる三河の地である。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。

 初句「うち渡し」は、橋を長くかけ渡す、の意で、三句の「八橋」の縁語である。
 二句「長き心は」は、長く続く心は、の意である。本巻の第五百七十九首の四句と同じ語である。
 三句「八橋の」は、三河の国の八橋の、の意で、川が蜘蛛の手のように分かれ、橋を八つ渡したことによる名の歌枕である。
 四句「蜘蛛手に思ふ」は、蜘蛛の手のようにあれこれと思い乱れる、の意で、前歌の「ささがに」を受けている。
 結句「ことは絶えせじ」は、絶えることはないだろう、の意で、前歌の初句「絶え果つる」を受けて打ち消している。

やつはし:三河の国の地名、川が蜘蛛の手のように分かれ八つの橋を渡したという歌枕
くもで:蜘蛛の足のように四方に分かれていること
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
絶え果つるものとは見つつささがにの 糸を頼める心細さよ
次の歌
思ふ人思はぬ人の思ふ人 思はざらなん思ひ知るべく