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秋の月千々に心を砕ききて
今宵一夜に堪へずもあるかな

歌の意味
秋の間ずっと月にあれこれと心を砕いてきて、今宵十三夜のこの一夜には、もう堪えきれないことだ。
鑑賞
巻第五 秋歌下 337

詞書「十三夜の心をよめる」
 十三夜の趣を詠んだ歌である。秋の間ずっと月を眺めては、あれこれと心を砕いてきたが、十三夜の今宵の一夜には、その思いにもう堪えきれない、と詠む。秋じゅうの物思いが、名月の一夜に集まってあふれ出すさまを描いている。
 作者の「よみ人しらず」は、作者の名が伝わらないことを示す。
 古今和歌集の大江千里の歌「月見れば千々にものこそ悲しけれ」以来、月を見て心が千々に乱れることは秋の歌の常套であった。前歌の第三百三十六首に続いて十三夜の月を詠む。

 初句「秋の月」は、秋の間ずっと眺めてきた月をいう。秋という長い期間と、四句の「今宵一夜」という一夜とが対をなす。
 二句「千々に心を」の「千々に」は、さまざまに、あれこれと、の意である。
 三句「砕ききて」の「砕く」は心をあれこれ悩ます意で、「きて」は、〜し続けてきて、の意である。
 四句「今宵一夜に」は、九月十三夜の今宵ただ一夜に、の意である。前歌の第三百三十六首の「今宵の月」を受け、初句の「秋」と対をなす。
 結句「堪へずもあるかな」は、堪えきれないことだ、の意で、「かな」は詠嘆である。

ちぢ:さまざま、あれこれ
くだく:心をあれこれと悩ます
作者
よみ人しらず
出典
千載和歌集
前の歌
澄む水にさやけき影の映ればや 今宵の月の名に流るらん
次の歌
さ夜更けて砧の音ぞたゆむなる 月を見つつや衣打つらん