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淵瀬とも心も知らず涙川
下りや立つべき袖の濡るるに

歌の意味
淵とも瀬とも分からず、あなたの心の深さも分からない涙川に、下り立ってよいものだろうか。ただ袖が濡れるばかりなのに。
鑑賞
巻第十 恋歌二 611

詞書「返し」
 淵か瀬かも、あなたの心の深浅も分からない涙川に下り立つべきだろうか、袖が濡れるばかりなのに、と詠んだ歌である。前歌の涙川を受け、相手の心の深さが知れないままでは恋に身を投じられないと、軽くかわしている。
 前歌の第六百十首に対する返しで、次歌の第六百十二首で再び作者が詠み返している。巻第九の第五百二十六首も初句を「淵瀬とも」としており、同じ言い回しで相手の心の深浅を問うている。
 作者の大輔は、後撰和歌集の時代の女房で、源弼の娘とされる。多くの貴公子と歌を贈答したことで知られる。

 初句「淵瀬とも」は、淵とも瀬とも、の意で、川の深い所と浅い所をいい、相手の心の深浅のたとえである。
 二句「心も知らず」は、あなたの心も分からない、の意である。
 三句「涙川」は、流れる涙を川にたとえた語で、前歌の三句を受けている。
 四句「下りや立つべき」は、下り立つべきだろうか、の意で、「や」は疑問の係助詞、連体形「べき」で結ぶ係り結びとなっている。前歌の四句「下り立ちてこそ」を受け、ここで句切れとなる。
 結句「袖の濡るるに」は、袖が濡れるばかりなのに、の意で、四句と倒置の関係にある。

ふちせ:川の深い所と浅い所、心の深浅のたとえ
作者
大輔
出典
後撰和歌集
前の歌
わび人のそほつてふなる涙川 下り立ちてこそ濡れわたりけれ
次の歌
試みになほ下り立たむ涙川 うれしき瀬にも流れあふやと