うらみても身こそつらけれ唐衣
きていたづらに返すと思へば
- 歌の意味
-
あなたを恨んでみても、我が身こそつらいことだ。唐衣を着るようにやって来たのに、むなしく帰されると思うと。
- 鑑賞
-
巻第十 恋歌二 660
詞書「女のもとにまかりたりけるを、ただにて返し侍りければ言ひ入れ侍りける」
あなたを恨んでも我が身こそつらい、せっかく来たのにむなしく帰されると思うと、と詠んだ歌である。逢いに来たのに門前払いされた嘆きを、唐衣にちなむ語を重ねて訴えている。
詞書によれば、女のもとに出かけたが、逢わないまま帰されたので、外から言い入れた歌である。本巻の第六百二十二首も三句に「唐衣」を置き、逢えずに過ごした嘆きを詠んでいる。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の一人で、土佐守などを務めた。『土佐日記』の作者としても知られ、三十六歌仙の一人である。
初句「うらみても」の「うらみ」は、「恨み」と、衣の「裏見」を掛けた掛詞で、「裏」は三句の「唐衣」の縁語である。
二句「身こそつらけれ」は、我が身こそつらい、の意で、「こそ」は強めの係助詞、已然形「けれ」で結ぶ係り結びとなっている。ここで句切れとなる。
三句「唐衣」は、美しい衣のことで、四句の「き」を導いている。本巻の第六百二十二首の三句と同じ語である。
四句「きていたづらに」の「き」は、衣を「着」る意と、「来」る意を掛けた掛詞で、来たのにむなしく、の意である。
結句「返すと思へば」は、帰されると思うと、の意で、「返す」には衣を裏返す意を響かせ、唐衣の縁語となっている。
うらむ:「恨む」意と、衣の「裏見」を掛ける
く:衣を「着」る意と、「来」る意を掛ける
からころも:美しい衣、衣の美称
- 作者
-
紀貫之
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
ちはやぶる神も耳こそ馴れぬらし さまざま祈る年も経ぬれば
- 次の歌
-
住吉の松に立ち寄る白浪の かへる折にや音は泣かるらむ