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出でしより見えずなりにし月影は
又山の端に入りやしにけん

歌の意味
出て行ってから見えなくなってしまった月の光は、また山の端に入ってしまったのだろうか。
鑑賞
巻第十 恋歌二 693

詞書「男のほど久しうありてまうで来て、御心のいとつらさに十二年の山籠もりしてなむ、久しう聞こえざりつると言ひ入れたりければ、呼び入れて物など言ひて返しつかはしけるが、又音もせざりければ」
 出て行ってから見えなくなった月の光は、また山の端に入ってしまったのか、と詠んだ歌である。久しぶりに訪れながら、また音沙汰のなくなった男を月にたとえ、再び山籠もりしたのかと皮肉を込めて問いかけている。
 詞書によれば、男が長い間をおいて訪れ、あなたの心があまりにつれないので十二年の山籠もりをしていて、長くご無沙汰したと言い入れてきたので、呼び入れて語らって帰したが、またそれきり便りがなかったので詠んだ歌である。次歌の第六百九十四首は男の返しである。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「出でしより」は、出て行ってから、の意で、月が出る意と男が帰って行った意を重ねている。
 二句「見えずなりにし」は、見えなくなってしまった、の意である。
 三句「月影は」は、月の光は、の意で、男のたとえである。
 四句「又山の端に」は、また山の稜線に、の意で、詞書の「山籠もり」を響かせている。
 結句「入りやしにけん」は、入ってしまったのだろうか、の意で、「や」は疑問の係助詞、連体形「けん」で結ぶ係り結びとなっている。次歌の第六百九十四首は「入らまほしけれ」とこれに応じている。

やまのは:山の稜線、空と接する山の端
やまごもり:寺にこもって修行すること
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
草枕このたび経つる年月の 憂きはかへりてうれしからなん
次の歌
あしひきの山に生ふてふもろかづら もろともにこそ入らまほしけれ