古典和歌stream

いたづらにたびたび死ぬと言ふめれば
逢ふには何をかへむとすらん

歌の意味
むなしく何度も死ぬと言うようだが、それなら、私に逢うことと引き換えに、いったい何を差し出そうというのだろう。
鑑賞
巻第十一 恋歌三 707

詞書「源さねあきら、頼むことなくは死ぬべしと言へりければ」
 何度も死ぬと口にするけれど、それでは逢うためには何と引き換えにするつもりなのか、と詠んだ歌である。命を引き換えに逢おうという恋の常套句を逆手に取り、軽々しく死ぬと言う相手をからかっている。
 詞書によれば、源信明が、頼みにさせてくれないなら死んでしまうだろうと言ってきたので詠んだ歌である。次歌の第七百八首は信明の返しで、二首で贈答となっている。
 作者の中務は、宇多天皇の皇子である敦慶親王と伊勢の娘である。三十六歌仙の一人で、源信明との恋の贈答でも知られる。

 初句「いたづらに」は、むなしく、無駄に、の意である。
 二句「たびたび死ぬと」は、何度も死ぬと、の意で、相手の言葉を引いている。
 三句「言ふめれば」は、言うようなので、の意で、「めれ」は婉曲の助動詞「めり」の已然形である。
 四句「逢ふには何を」は、逢うことには何を、の意である。命と引き換えに逢うという言い方を踏まえ、命を何度も捨ててしまえば引き換えるものがないとからかっている。
 結句「かへむとすらん」は、引き換えにしようとするのだろう、の意で、「らん」は現在の推量を表す。

かふ:引き換える、交換する
作者
中務
出典
後撰和歌集
前の歌
思はむと頼めし人は変はらじを 問はれぬ我やあらぬなるらん
次の歌
死ぬ死ぬと聞く聞くだにも逢ひ見ねば 命をいつの世にか残さん