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わたつみと荒れにし床を今更に
払はば袖や泡と浮きなん

歌の意味
涙で海のように荒れてしまった寝床を、今さら払ったならば、袖が泡となって浮いてしまうだろうか。
鑑賞
巻第十一 恋歌三 757

詞書「返し」
 海のように荒れてしまった床を今さら払ったら、袖は泡となって浮いてしまうだろう、と詠んだ返歌である。長く待たされて流した涙で床は海のようになっていると訴え、今さら払い清めても遅いと切り返している。
 前歌の第七百五十六首に対する返しである。
 作者の伊勢は、伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の中宮温子に仕えた。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き芦のふしの間も」の歌が採られている。

 初句「わたつみと」は、海のように、の意で、涙で床が海のようになったことをいう。
 二句「荒れにし床を」は、荒れてしまった寝床を、の意で、前歌の四句「古りにし床も」を受けている。
 三句「今更に」は、今さら、の意である。
 四句「払はば袖や」は、払ったならば袖は、の意で、前歌の結句「うち払ふべく」を受けている。「や」は疑問の係助詞である。
 結句「泡と浮きなん」は、泡となって浮いてしまうだろう、の意で、四句の「や」を受けて連体形「なん」で結ぶ係り結びとなっている。

わたつみ:海、また海の神
作者
伊勢
出典
後撰和歌集
前の歌
宵の間にはや慰めよ石上 古りにし床もうち払ふべく
次の歌
潮の間にあさりする海人もおのが世々 かひありとこそ思ふべらなれ