岸もなく潮し満ちなば松山を
下にて波は越さむとぞ思ふ
- 歌の意味
-
岸もなくなるほどに潮が満ちたならば、松山を下に見て、波は越えてゆくだろうと思う。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌三 760
詞書「返し」
岸もないほど潮が満ちたなら、波は松山を下にして越えるだろうと思う、と詠んだ返歌である。思いが満ちあふれれば松山さえも越えてしまうと、相手の問いに、心の内に秘めた思いの強さで応じたものと解される。
前歌の第七百五十九首に対する返しで、本巻の第七百五十五首から続く末の松山の歌を受けている。
作者の伊勢は、伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の中宮温子に仕えた。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き芦のふしの間も」の歌が採られている。
初句「岸もなく」は、岸もなくなるほど、の意である。
二句「潮し満ちなば」は、潮が満ちたならば、の意で、「し」は強めの副助詞である。
三句「松山を」は、末の松山を、の意で、前歌の二句「などか松山」を受けている。
四句「下にて波は」は、下にして波は、の意で、「下」には松山の下の意と、心の内の意が重ねられている。
結句「越さむとぞ思ふ」は、越えるだろうと思う、の意で、前歌の三句「波越さむ」を受けている。「ぞ」は強めの係助詞であり、連体形「思ふ」で結ぶ係り結びとなっている。
まつやま:陸奥の国の歌枕である末の松山
- 作者
-
伊勢
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
あぢきなくなどか松山波越さむ ことをばさらに思ひ離るる
- 次の歌
-
世とともになげきこりつむ身にしあれば なぞやまもりのあるかひもなき