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心からうきたる舟に乗りそめて
一日も波に濡れぬ日ぞなき

歌の意味
自分の心から、浮いて頼りない舟に乗りはじめてしまったので、一日として波に濡れない日、涙に濡れない日はない。
鑑賞
巻第十一 恋歌三 779

詞書「男の気色、やうやうつらげに見えければ」
 自ら望んで浮いた舟に乗りはじめたので、一日も波に濡れない日はない、と詠んだ歌である。頼りない恋を自分から選んでしまったことを、浮かぶ舟に乗り出したことにたとえ、涙に濡れ続ける日々を嘆いている。
 詞書によれば、男の様子が次第に冷たく見えてきたので詠んだ歌である。本巻の第七百六十八首も「浮きたる恋」を入江を漕ぐ舟にたとえており、同じ趣向である。
 作者は小野小町である。六歌仙、三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「花の色は移りにけりないたづらに」の歌が採られている。

 初句「心から」は、自分の心から、自ら進んで、の意である。
 二句「うきたる舟に」の「うき」は、舟が「浮き」と、つらい意の「憂き」を掛ける掛詞である。本巻の第七百六十八首の四句「浮きたる恋も」と同じ語を用いている。
 三句「乗りそめて」は、乗りはじめて、の意で、恋を始めたことをたとえている。
 四句「一日も波に」は、一日も波に、の意で、「波」には「涙」が重ねられている。
 結句「濡れぬ日ぞなき」は、濡れない日はない、の意で、「ぞ」は強めの係助詞であり、連体形「なき」で結ぶ係り結びとなっている。

うき:舟が「浮き」の意と、つらい意の「憂き」を掛ける
のりそむ:乗りはじめる
作者
小野小町
出典
後撰和歌集
前の歌
今はとて行き帰りぬる声ならば 追ひ風にても聞こえましやは
次の歌
忘れなんと思ふ心のやすからば つれなき人を恨みましやは