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ひたすらに厭ひ果てぬるものならば
吉野の山に行方知られじ

歌の意味
もしあなたが私をすっかり嫌いきってしまったというのなら、私は吉野の山に入って、行方を知られないようにしよう。
鑑賞
巻第十二 恋歌四 808

詞書「女につかはしける」
 すっかり嫌われてしまったのなら、吉野の山に入って行方を知られないようにしよう、と詠んだ歌である。世を逃れる地とされた吉野に身を隠すと言い、相手のつれなさを嘆きつつ、その心を引きとめようとしている。
 詞書によれば、女のもとへ送った歌である。次歌の第八百九首は伊勢による返しで、この女が伊勢であることがわかる。
 作者の「贈太政大臣」は藤原時平である。関白藤原基経の長男で、左大臣に至り、没後に太政大臣を贈られた。菅原道真を大宰府に退けたことでも知られる。

 初句「ひたすらに」は、すっかり、一途に、の意である。
 二句「厭ひ果てぬる」は、すっかり嫌いになってしまった、の意で、「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形である。
 三句「ものならば」は、というのであるならば、の意で、仮定の条件を表す。
 四句「吉野の山に」は、大和の吉野の山に、の意で、吉野は俗世を逃れて隠れ住む地として詠まれてきた。次歌の第八百九首も「吉野」を詠み込んで応じている。
 結句「行方知られじ」は、行方を知られないようにしよう、の意で、「じ」は打消の意志を表す。

いとひはつ:すっかり嫌いになる
ゆくへ:行き先、居所
作者
藤原時平
出典
後撰和歌集
前の歌
種はあれど逢ふことかたき岩の上の まつにて年をふるはかひなし
次の歌
我が宿と頼む吉野に君し入らば 同じかざしをさしこそはせめ