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紅に袖をのみこそ染めてけれ
君を恨むる涙かかりて

歌の意味
紅色に袖ばかりを染めてしまったことだ。あなたを恨んで流す涙がかかって。
鑑賞
巻第十二 恋歌四 810

詞書「題しらず」
 紅色に袖ばかりを染めてしまった、あなたを恨む涙がかかって、と詠んだ歌である。悲しみが極まって流す紅の涙を詠み、相手のつれなさへの恨みの深さを表している。
 本巻の第八百十一首、第八百十二首と、初句を「紅に」「くれなゐに」とする歌が三首続いており、紅の涙をめぐる一連となっている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。なお本文の作者表記は「よみ人も」とあり、よみ人しらずを示している。

 初句「紅に」は、紅色に、の意で、悲しみの極みに流す血の涙の色を表している。次歌の第八百十一首、第八百十二首も初句を同じくしている。
 二句「袖をのみこそ」は、袖ばかりを、の意で、「こそ」は強めの係助詞である。
 三句「染めてけれ」は、染めてしまったことだ、の意で、二句の「こそ」を受けて已然形「けれ」で結ぶ係り結びとなり、ここで句切れとなる。
 四句「君を恨むる」は、あなたを恨む、の意である。
 結句「涙かかりて」は、涙がかかって、の意で、三句までと倒置になり、袖が染まった理由を後から述べている。

くれなゐ:鮮やかな赤色。ここでは血の涙の色
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
我が宿と頼む吉野に君し入らば 同じかざしをさしこそはせめ
次の歌
紅に涙うつると聞きしをば などいつはりと我が思ひけん