いにしへの野中の清水見るからに
さしくむものは涙なりけり
- 歌の意味
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昔のままの野中の清水を見るとすぐに、汲むように胸にこみあげてくるものは、涙であったよ。
- 鑑賞
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巻第十二 恋歌四 813
詞書「相住みける人、心にもあらで別れにけるが、年月を経てもあひ見むと書きて侍りける文を見出でてつかはしける」
昔の野中の清水を見るとすぐに、こみあげてくるのは涙であった、と詠んだ歌である。かつて共に暮らした人の手紙を野中の清水にたとえ、昔の心を思い出して涙があふれることを詠んでいる。
詞書によれば、共に暮らしていた人と心ならずも別れたが、年月がたってもまた逢おうと書いてあった手紙を見つけ出して送った歌である。古今和歌集雑上のよみ人しらずの歌「いにしへの野中の清水ぬるけれどもとの心を知る人ぞ汲む」を踏まえ、もとの心を知る者として涙を汲むと応じている。
本巻では次歌の第八百十四首、第八百二十五首も結句を「涙なりけり」としており、同じ結句を共有している。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。なお本文の作者表記は「よみ人も」とあり、よみ人しらずを示している。
初句「いにしへの」は、昔の、の意で、古今和歌集の歌の初句をそのまま用いている。
二句「野中の清水」は、昔なじみやもとの心の象徴とされる清水で、ここでは昔の手紙をたとえている。
三句「見るからに」は、見るとすぐに、の意で、「からに」は直後に起こることを表す。
四句「さしくむものは」は、汲むものは、の意で、清水を「汲む」意と、涙が「さしぐむ」意を掛けている。
結句「涙なりけり」は、涙であったよ、の意で、「けり」は気づきの詠嘆を表す。次歌の第八百十四首も同じ結句で結んでいる。
のなかのしみづ:播磨の印南野にあったとされる清水。古今和歌集の歌から、昔なじみやもとの心の象徴とされる
さしくむ:清水を「汲む」意と、涙が「さしぐむ」(涙ぐむ)意を掛ける
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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紅に涙し濃くは緑なる 袖も紅葉と見えましものを
- 次の歌
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天雲の晴るる夜もなく降るものは 袖のみ濡るる涙なりけり