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水鳥のはかなきあとに年を経て
通ふばかりのえにこそありけれ

歌の意味
水鳥が残すはかない足跡のような、はかない筆跡の手紙だけで年を過ごし、ただ文が行き来するばかりの縁であったのだ。
鑑賞
巻第十二 恋歌四 836

詞書「ただ文交はすばかりにて、年経侍りける人につかはしける」
 水鳥のはかない足跡のような筆跡だけで年を経て、文が通うばかりの縁であった、と詠んだ歌である。逢うこともなく手紙のやりとりだけで過ぎた年月を、水鳥の跡と入り江に重ねて嘆いている。
 詞書によれば、ただ手紙を交わすばかりで何年も過ぎた人に送った歌である。次歌の第八百三十七首はこれに対する返しで、二首で贈答となっている。本巻の第八百二十八首も、千鳥の「あと」に筆跡を重ねている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「水鳥の」は、水鳥の、の意である。次歌の第八百三十七首も三句に「水鳥の」を置いて応じている。
 二句「はかなきあとに」は、はかない跡に、の意で、「あと」に水鳥の「足跡」と、手紙の「筆跡」を掛けている。
 三句「年を経て」は、年を過ごして、の意である。
 四句「通ふばかりの」は、行き来するばかりの、の意で、水鳥が通う意と、手紙が通う意を重ねている。
 結句「えにこそありけれ」は、縁であったのだ、の意で、「え」に水鳥の住む「江」と「縁」を掛けている。「こそ」は強めの係助詞で、已然形「けれ」で結ぶ係り結びとなっている。

あと:水鳥の「足跡」と、手紙の「筆跡」を掛ける
え:水鳥の住む「江」と、「縁」を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
時分かぬ松の緑も限りなき おもひにはなほ色や燃ゆらん
次の歌
波の上にあとやは見ゆる水鳥の うきて経ぬらん年は数かは