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流れ寄る瀬々の白波浅ければ
とまるいな舟かへるなるべし

歌の意味
流れ寄せる瀬々の白波が浅いので、とどまるはずの稲舟も引き返していくのだろう。あなたの思いが浅いので、私の心も引き返すのだろう。
鑑賞
巻第十二 恋歌四 838

詞書「消息つかはしける女のもとより、いなふねのといふことを返事に言ひ侍りければ、頼みて言ひわたりけるに、なほ逢ひがたき気色に侍りければ、しばしとありしを、いかなればかくはと言へりける返事につかはしける」
 瀬々の白波が浅いので、とどまるはずの稲舟も引き返すのだろう、と詠んだ歌である。相手の思いの浅さを浅瀬にたとえ、それゆえに自分の心も引き返していくのだと、女の立場から答えている。
 詞書によれば、男が手紙を送っていた女から「いなふねの」と返事があったので、それを頼みにして言い寄り続けたが、なお逢いがたい様子で「しばし」と言われ、男が「どうしてこうなのか」と言ってきたことへの返事として送った歌である。「いなふねの」は、古今和歌集東歌の「最上川のぼればくだる稲舟のいなにはあらずこの月ばかり」を引いたもので、いやではない、今月ばかりは待ってほしい、の意を伝えている。次歌の第八百三十九首は三条右大臣による返しで、二首で贈答となっている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「流れ寄る」は、流れて寄せてくる、の意である。
 二句「瀬々の白波」は、あちこちの浅瀬の白波、の意である。
 三句「浅ければ」は、浅いので、の意で、相手の思いの浅さを暗に責めている。次歌の第八百三十九首は「深きにも」と、浅さに深さで応じている。
 四句「とまるいな舟」は、とどまるはずの稲舟、の意で、「いな」に古今和歌集の歌の「否(いな)」を響かせている。
 結句「かへるなるべし」は、引き返すのであろう、の意で、舟が引き返す意と、心が引き返す意を重ねている。次歌の第八百三十九首も「かへるなるかな」と同じ語で応じている。

せせ:あちこちの浅瀬
いなぶね:稲を積んで運ぶ舟。「否(いな)」を響かせる
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
波の上にあとやは見ゆる水鳥の うきて経ぬらん年は数かは
次の歌
最上川深きにもあへずいな舟の 心軽くもかへるなるかな